待っていても取りに来てくれない注文は厨房に顔を出して自分の座っている場所と一緒に告げる。
あとはすぐに出てこない料理を静かに過ごして待つ。
「まだ?」なんて言う人は一人もいない。
しばらく待ってお婆ちゃんが運んでくれる、なぁんの飾り気もない、そしてあっさりとした昔ながらの醤油ラーメンは、一口食べて衝撃が走る美味さってわけでもない。
しかし、あっという間に最後の一滴まで飲み干してしまうそれは、調味料だとかコクだとか一言では言い表せない沢山の何かが詰まっている。
それはいったい何だろう・・・。
ただひたすらに守り抜いてきたというような大げさなものでなく、”続けてきた”と言った方が正しいのかもしれない味。
ゆっくりとした変化を遂げてきたこの街のこの場所、そしてこの店に居ると、子ども達の声や鍋をふる音、ご近所の方々の会話や夕暮れに聞こえる豆腐屋さんの笛の音など、自分が小さかった頃に聞いた音や風景が蘇ってくる。
ここでしか、そう、この店で食べるからこその味なのかもしれない。
マニュアルなんて決してないし、この味は他では決して作れない。
やっぱりまた行こう。
リセットしたい時や嬉しい事や寂しい事があったらまた一緒に行こう。
コメント